鬼十則
社員の過労死を受けて、電通は社員手帳に載せてきた社員の心得「鬼十則」を、2017年版から掲載しないそうだ。鬼十則は、電通4代目社長の故吉田秀雄氏が昭和26年7月に自らが実践する仕事に対する心構えをとりまとめ、社員に示したもの。
今回の不幸な事件が起こる前にも、「鬼十則」は有名なのでたびたび見聞きしていたが、昭和の遺物として葬送されることとなった、このいわゆる「名言」を今一度確認してみたいなと思った。
  1. 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
  2. 仕事とは、先手々と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
  3. 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
  4. 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
  5. 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
  6. 周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
  7. 計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
  8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらない。
  9. 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
  10. 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

一読した素直な個人的感想としては、いくつかは合点するものがある一方で納得できないものもある。例えば「仕事とは、先手々と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない」や「計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる」はどのような仕事にも通じるセオリーだと思う。
一方、「大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする」はどうだろう。私は小さな仕事をおろそかにする人間をあまり信用できない。地味な努力の積み重ねの上に築いた経験値を持ってないと大きな仕事はできない。それにホームラン至上主義が浸透した組織が健全に機能するとは思えない。

その他の文言についても合点できるもの、納得できないものがあるが、もう触れない。「鬼十則」というものが吉田秀雄という一人の個人の考え方である以上、いろいろな感想があるのは当然だ。働き方は結局自分で四苦八苦しながら会得していくものだと思う。「鬼十則」も、誰かからの押し売りではなく、吉田秀雄氏自身が苦労して会得した体験をもとにしている。問題は、こうした個人的な信念を社員に押し付ける姿勢だと思う。昔はともかく、今では時代遅れの産物でしかない。

【参考】
吉田秀雄と鬼十則(公益財団法人 吉田秀雄記念事業財団)
鬼十則(昭和26年制定)(同上)