ナウル共和国。太平洋に浮かぶ国土面積がわずか21km²の独立国家である。バチカン、モナコに次ぐミニ国家で人口も1万人程度しかいない。この国がたどった歴史はまるで寓話のようによくできたストーリーであり、作り話のように思える。
全国民へのベーシックインカム支給、税金は無料、電気代、病院代も無料、結婚すれば新居を国が与えてくれる。加えて、国民所得はアメリカを凌ぎ世界トップレベル。
しかし繁栄の絶頂からの急転落。富、文化、環境を失い、生活は石器時代に戻ろうとしている。この本で語られるナウルの物語は寓話でも何でもなく実話だ。現代における史上最大の破綻国として、この小さな共和国は名を残すことになった。

この国の富の源泉はリン鉱石だ。アホウドリなどの海鳥の糞が膨大な時間をかけて堆積することで生成されるこの資源は、良質な化学肥料の原料となるため高値で取引される。島全土で採掘が可能だったこのお宝をとにかく掘りまくった。その結果、1人あたりのGNPベースで日本が1万ドル弱、米国でさえ1万4千ドル程度だった1980年代初頭に、ナウルは2万ドルを誇るまでになる。

国民は、一周30分で回れる狭い国土に不要な高級外車を買い漁り、食事は外食しか行わなくなり、海外にショッピングに出向き散財した。彼らは働いて稼ぐことを知らない。欧州諸国に"発見"される前は主に漁業で自給自足の生活をしていたが、イギリスの植民地時代には強制労働に徴用され、そして独立後はリン鉱石の輸出により何もしなくてもベーシックインカムで金が勝手に口座に振り込まれるようになる。
リン鉱石の採掘作業を行うのは専ら中国人などの出稼ぎ労働者達であり、小売りや外食店を営むのも外国人達。彼らはただ消費するだけの生活を享受した
その結果、富は失っても、いまだにダントツで世界一の肥満国(2008年のWHOの調査によると、国民の79%が肥満)であり、多くの国民が糖尿病で苦しんでいる。リン鉱石が枯渇し、国に唯一あった国立銀行も破綻して預金の引き出しも出来なくなった今となっては、働いて稼ぐ経験をしたことがない彼らは、生きていくには漁業による自給自足の生活に逆戻りするしかない。かつての遠い祖先が行っていたように。

1968年に独立国家となったこの小国の繁栄は、無計画な採掘により15年と持たなかった。しかし、実は1990年代から2000年代初頭にはこの「お宝」を掘り尽くしてしまうだろうことは、独立の頃から分かっていたという。その対策として、この国の政府がやったことは、海外への投資である。リン鉱石で稼いだお金の半分は国民に分配され、残り半分は政府により国外への投資に向かった。
オーストラリア、ニュージーランド、ハワイなどのホテルやマンションといった不動産をとにかく買い漁った。リン鉱石しか資源がなく、狭く観光にも適さない国家の取り得る選択肢として海外へ目を向けるのはある意味必然だし、それしかなかったのかもしれない。

結局、これは失敗した。財務大臣でさえも、ほとんど金融知識をもたない素人だったため、海外からやってくるあやしげな連中に手玉に取られ、多くの資金が知らぬ間にどこかに消えてしまう始末。
リン鉱石もダメ、海外投資もダメとなって、ついにはやけくそになって国家ぐるみで犯罪行為に手を出し(マネーロンダリング、不法パスポート発行等々)たが、焼け石に水。その上、当然ながら世界的な非難を浴びてしまう。

ナウルの状況はダイヤモンド著の「文明崩壊」で語られるイースター島の崩壊の物語に似ている。ナウルと同じ太平洋の小島イースター島は、無計画な開発と環境破壊を続けた結果として、ついには資源を消費し尽くして文明が消滅してしまい、島民の生活は石器時代に戻ることとなる。
両者の大きな違いは、イースター島は他の文明と隔絶され閉鎖された空間に存在し、また、森林破壊等が国土に与える影響を科学的に分析・理解できる時代ではなかったのに対して、ナウルは地理的にはイースター島と同じく世界の果てに位置するにせよ、他文明と隔絶するどころかむしろ積極的にグローバリゼーションの波に乗って行き、それに飲み込まれた結果として崩壊した点だ。また、それが持続可能ではないこともナウル人は分かっていた(けども止められなかった)という点も。

※この記事は旧ブログ「投資十八番」で過去に書いた記事を再構成してアップしたもの